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モーツァルト天才の発露 モーツァルトが僅か14歳の時にミラノの歌劇場(現在のスカラ座)で初演(1770年12月)され、大喝采を博したことで知られる。Racine (1639-1699)の原作に基づきCigna-Santiによって書かれた台本が優れており、当時の王侯貴族の暮らしで最大関心事だった恋愛と王位継承(その背景にある憎悪や名誉)をめぐる葛藤を、モーツァルトが美しい音楽世界に纏め上げている。父Leopoldの助言があったのに違いないだろうが、Aspasia(ギリシャ皇女)を巡る父Mitridate及び二人の息子 SifareとFarnaceの間の人間心理や確執を理解して、少年モーツァルトが傑作Opera Seriaに仕上げ得えたのは驚きであり、天才の名に恥じない由縁といえよう。 Ponnelleが映画撮影に選んだのは、PalladioのTeatro Olympico(Vicenza)であり、彼の言葉を借りれば「世界でもっとも幻想的な建築物」だという。Ponnelleは、モーツァルトのことを「音楽史上いな、西洋文明上最大の天才」と考え、彼の最初のOpera Seriaの映画化に際して、Palladioの半ば廃墟と化した石造り建築物のテラスや回廊を用いて、舞台空間に変化とアクセントを与えることに成功している。歌劇場における場面転換(大道具)に倣う試みとでもいえようか。 Ponnelle映像化の特徴は、日本の能舞台を見るかのように 聴衆のイマジネーションに訴えるところが多いことといえよう。 歌手起用 歌手では、Ponnelleはモーツァルト時代のカストラータ3人に代えて、二人のソプラノと1人のボーイ・ソプラノを起用しており、それが成功の一因となっている。 3人のソプラノのうち一番見目麗しいYvonne Kennyを皇女Aspasiaとし、Mitridateの二人の息子は兄のSifare役を Ann Murray、弟のFarnace役をAnne Gjevangとしている。実話では年老いた国王の相談役Arbate を少年のボーイ・ソプラノとして、全体の進行の狂言廻し風に登場させて、オペラの理解を助けている。台本の役どころのマイナーチェンジとなってはいるが、首肯できるところである。 聴き応えあるアリアやカバティーナ 1770年初演の頃、"Mitridate"を他の作曲家(Gasparani)ですでに3年前に歌っていた歌手たちが、皆モーツァルトのオペラだけを歌いたがるようになったというエピソードが残されているように、登場人物には皆美しいアリアやカバティーナが用意されている。特に第3幕では、毒杯を手にしながら死への憧れを歌う皇女AsapsiaのCavatina "Pallid ombre"は9分間近く続く感情豊かにも美しい歌であり、21世紀に入ってもソプラノがコンサート・プログラムに加えたくなるような曲である。Yvonne Kellyは声もよい。 Mitridateのアリア"Vado incontro"では、怒りの激情を表すシーケンスで交響曲25番冒頭のメロディーを思わせるフレーズが数小節現れる。3年後17歳のモーッアルト作曲のト短調は、果たして激情の発露だったのだろうか。天才モーツァルトの頭の中は、感情表出別に類型化された楽想のパターンがあったと思わずに入れなくなってしまう。 Sifare の2幕目のアリア"Lungi da te, mio bene"も9分位続く、感情の起伏激しいソプラノなら誰でも歌いたくなるような歌である。Anne Murrayもよい。