とても良い / 口コミ件数 : 7件
価格 : 2,625 円
ミュージシャン/映画評論家/作家の、三年半にわたる日記。 この本に、「断腸亭日乗」(荷風)の叙情や「言わなければよかったのに日記」(深沢七郎)のエスプリを求めてはいけない(まあ、この本にもそれは少しはあるけれど)。 そういう日記文学よりも、本書の読後感はサドの「ソドム百二十日」に近い。 毎日のように出てくる、著者が買うDVD、CD、音楽機材、本などのおびただしいタイトル名。原稿料が入るとすぐにそれらを買うことで蕩尽せずにはいられない、業のようなものが読むうちに浮かび上がってくる。 サドの本で過剰に並べられる性行為のバリエーションがかえって性の不毛を浮かび上がらせたのに似て、「作業日誌」の買い物は、楽しいことというより、何かへの抵抗運動か、パフォーマンスのように見えてくる。 欲しいものを買い続けることは結構疲れるだろうし、それがこの著者のレベルまで行くと簡単に真似できるものではない。 ただの「お買い物日記」なら、自分の知識や買ったことを自慢する感じが出てくるだろうけれど、この本にはそういう感じはない。 かわりに、よくわからない覚悟と、悲愴がある。 商品をただ買っているわけではなく、そこに批評精神があるからなのか。 よくわからない。が、言えるのは、この本の値段2500円を「けっこう高い」と感じて尻込みしてしまう人と、銀行残高がゼロに近づこうと面白そうなものには金を惜しまない中原昌也とでは、知的リソースに対する貪欲さが違う、人間の器が違う、ということだ。 (そこまで言うとちょっと誉めすぎか。単に我慢ができないのかも知れないけれど。) というように面白く読める一方、読者にとっては、著者の精神の糧となっている映画や音楽、本へのガイドとしても、もちろん有用。必読。
彼の小説、映画評は愛読しているが、個人的には本作が最もおもしろく、ぐいぐい引き込まれ、相当な文字量をものともせずに一気に読んだ。彼の文章につねに出てくる苦しさの吐露は、短い文章で読む分にはちょっとしたユーモアに見えたりもするのだが、本書では実感が切実に迫ってくる(もちろん天性のサービス精神から誇張している部分はあるにせよ)。そしてその苦しさ・辛さはいま(近代?)の社会に生きることの息苦しさを確かに反映しているように思えた(ちょっと違うかも知れないが、ともかく普遍的なテーマだと)。また、むしょうにもっと映画を観たくなり、まともな本を読みたくなる本でもある(人によってはまともな音楽を聴きたくなるだろう)。著者の芸術に対する躊躇のないカネ払いのよさに影響を受け、読了後、2600円か……と思って買っていなかった『トランス=アトランティック』やら海外文学を、ケチるのが何だかしみったれで恥に思えて、まとめ買いしてしまった。その意味では、本書がよく読まれれば、ずいぶんいい社会になりそうだとも言えるかな。
とにかくよく買う。労働、お金、貯蓄は不浄だとばかり、入ったギャラの分はきっちりとCDやレコードやDVDなどに交換してしまうのだから年中金欠状態なのは当然のこと。買いっぷりだけ追っていても気持ちがいい。 ライブハウスや試写室や自宅で、著者はよく泣く。これは誇張でなく本当に泣く。とにかく著者はプアでありピュアでもあるって、つまらないシャレですみません。 そして、著者はよく人に会う。編集者、作家、映画監督、評論家、音楽家、俳優……。金はくれないけれど(たまに貸してはくれるようです)、著者の仕事を評価する人は多い。世の中捨てたもんじゃない。 本人は冗談じゃないと言うだろうが、「凡庸」に安住している私からすると、すっごくうらやましい極端な毎日の記録で、「無理せずにやりたいことやっちゃおうかな、この際だから」などとよくわけもわからないやる気が出てきたりもします。 永井荷風の『断腸亭日常』をこえる、中原昌也の買い物日記。何十年か後にも残っている名著だと思います。
おびただしい固有名がみだれ飛ぶ。さまざまな映画、音楽、それに書籍……。 こんなに観ていない、聴いていない、読んでいないものが、まだ世の中にはあるのか。 読めば必ず散財せずにはいられなくなるはず。
読んでいると、CDやDVDのタイトルの膨大さにも圧倒させられるけれど、中原昌也の行動に笑ってしまった。電車で読んでいたら、笑いをこらえるのに苦労しました。面白いです。反面、闇の部分も赤裸々に綴られていて、彼が落ち込んでいる時の日記にはなにやらせつなくなってきてしまった。しかし、そんなことおかまいなしに、すんげえ面白かったです。