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ブータンは、諸外国が躍起となるGNP(国民総生産)ではなく、GNH(国民総幸福)を国王が提唱、独自の国づくりを実践しているという。本書は文化人類学の視点から、この国の実態をフィールドワークとして捉えているので、説得力がある。 ブータンと言えば、「秘境」「桃源郷」としての思い入れに囚われそうになるが、自戒しながらも、近代合理主義に対するアンチテーゼとしての立場から、ブータン魅力の紹介となっている。国として「急ぎすぎない開発」に心がけ、自然環境、伝統文化、仏教的世界観の継承を大切にしている。 いくつかの実例を挙げれば、オグロヅルの保護のために電線を張らないポプジカの谷。国全体の禁煙(この国だけ)。教育費・医療費無料。生まれ変わり・輪廻を深く信じる。 第5章「死を含む幸福」で日本の死生観との比較がされているところは見逃せない。日本では、ブータンのような輪廻の考えは薄く、「迷わず成仏して下さい」と手を合わし、祖霊と一体になる霊魂観。現世利益的な近視眼的日本人を指摘。ブータン人は今のこの行いの結果が、必ずしもこの世で具体的に現れるわけではないく、永遠性の中で生きていると思っている。 強く心惹かれる言葉が次である。 ブータンの人々は「風は宇宙の息である」という。 死者を回向する旗ダルシンも、遺骨を混ぜて作ったツァツァも広大な自然に解き放たれる。 ブータンの人々は墓(石塔)を持たない。 「国民の豊かさとは何か」「人間の幸福とは何か」を静かに考えさせられる一書である。