邦訳題名が的外れだというのではないが、原題の”A Demon of our own Design” は「俺たちが魂を入れた魔神」、つまり人間ファウストが契約を結んだ悪魔を思わせる。これが投資世界にかかわるものであることを知らせるために副題は「マーケット、ヘッジファンド、そして金融イノべーションの災厄」となっている。「魔神」とはこの「災厄」の元凶であり、著者によればその災厄は現状ではほとんど避けがたい。それが今や現実のものになってしまったことはわれわれが身をもって知るところである。
それではこの魔神の正体は何か。それは一言でいえば「市場の複雑性」(高度にレバレッジを組み込んだ多種多様な金融商品の市場)とその市場内部あるいは相互間の「密結合」状態(本来はプロセスの構成要素が緊密に連携している状態を指すエンジニアリング用語)である。これだけではまだ抽象的にすぎるかも知れないが、ここから現実に起きている事態、つまり各種のデリバティブズの流通とそれが招来するシステミック・リスクに思いを及ばせることは可能だろう。著者は「金融商品を単純化し、レバレッジを減らすことが、金融市場の制度設計を修正する処方箋である」という。(それは正しい結論だと思われるが、07年に出版された本書が現下の危機が不可避だったと主張しているわけではない。)
本書は幾つもの投資銀行でリスク・マネジメントの実務に従い、半ばは学者でもある著者の実践と研鑽にもとづいた力作である。ここに紹介した結論に到達する以前に描かれた80年代以降の投資銀行各行の浮き沈みはこの世界に渦巻く欲望の強烈さと幾多の大銀行がそれに立ち向かい、危うく立ち直った、リスクの巨大さを改めて思わせる。賢人賢者と讃えられる投資世界の大御所たちがITバブルでは一敗地にまみれていることも興味をそそる。著者はヘッジファンドとは定義不能と考えているようである。たとえそうでないとしてもその定義には明らかに手を焼いている。そうとすればリスクを対象とする本書を細部まで理解できなくても恥とするには当たらない。
5. とても良い
しおぴーさん
書き込み日: 2009年05月05日
完全市場のもろさを暴露
原題は"A Demon of our own Design"「我々が創りし悪魔」で、自分たちがこの「不安定な金融マーケット」を創ってしまったことについての、懺悔の意味が込められているのでは。著者が働いてきた投資銀行、ヘッジファンドという少し前の最先端、サブプライムショック後の今では「衰退していく恐竜」にもたとえられる業界モノ。その変遷と彼らが巻き起こした金融イノベーション、そしてその弊害として頻発するようになった「暴落」リスクについて。マーケットの急激な変動が過度のレバレッジによって発生することは他著者も指摘している通り。著者は根本原因のレバレッジそのものの規制を主張している。