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ノブレス・オブリージュの体現者、「義憤の志士」を追悼して |
本書は、ヤマト運輸において氏が何を見て何を学び、如何に考えを得てきたのかを示す「第二創業」および宅急便という「イノベーション」のケーススタディと言える。 また、巻末に認められらた「経営リーダー10の条件」は氏の経営哲学を表象している。曰く「論理的思考」「時代の風を読む」「戦略的思考」「攻めの経営」「行政に頼らぬ自立の精神」「政治家に頼るな」「マスコミとの良い関係」「明るい性格」「身銭を切ること」「高い倫理観」の10である。 この時に臨んで、氏が世に問い・具現化した「宅急便」が我々の生活にもたらした利便を振り返って再考してみるべきだし、追随した他社の人々は尚更であり、これが生まれた経緯と実践を見つめ、我々自身の行動において生かすべきことは何かを真摯に問うてみる価値がある。 文面から迫り来る氏の経営者像は、決してビジョナリストではないし元来のオプティミストではない。むしろ価値観と信条の人である。この良心に触れた時、彼に眠る強大なマグマが火柱を上げるのだ。「義憤の志士」という表現があるなら、それが一番適切かもしれない。三越に対する義憤、運輸省に対する義憤、郵政・郵便局への義憤、また、パイを守ることに終始しパイを拡大することを考えない視野狭窄な従業員の集団思考(グループ・シンク・バイアス)への義憤である。 一方、彼の企業家としての行動態度の根底には「ジョブ・クリエイション」があるのだと強く思う。長距離・大量輸送を華としてきたドライバー達に、家庭の主婦からの「ありがとう」の言葉を与えた。今では、ヤマト運輸に働く人の数は、わが国屈指の域にある。時として「選択と集中」は重要であるが、これを笠に着てヒトキリをするのでなく、働く者に新たな仕事を創り出すことが、氏の戦略的思考の本質なのである。 また、彼のアイデア借用の姿勢は極めて徹底している。牛丼、JALパックから、猿真似のエビゴーネンではなく本質をプリコラージュしていくのだ。「新しいアイデアとは新しい場所に置いた旧いアイデアである」とは良く言われるが、彼が生んだイノベーションの本質もここにある。 最後に、人間の八徳には「仁」と「義」がある。仁は最高の徳とされるが、義を重んじた彼の行動は、結果、仁に至ったのだと思う。また、昨今のCSR「ブーム」とは次元の違うノブレス・オブリージュ(道徳的義務感)を胸にし、正すべきは正すを信条とした希代の企業家が、自らの経営の実践において錬磨し昇華してきたフィロソフィーが、この一冊に凝縮している。伊藤肇曰くの「精神の貴族性」、「第5水準のリーダーシップ」(『ビジョナリーカンパニー2』)を持った経営者なのだ。昭和の経営者の巨星の最期の時に際して、本書および『経営はロマンだ!』から益々そう感じるのである。 巨星の逝去に当りそのご冥福を祈り、しかし、彼が事上磨錬のなかで昇華したビジネスに対する姿勢がひとつのロール・モデルとしてこれからも模範として受け継がれていくことは疑う余地がない。 |
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