 |
「一粒で何度でも美味しい」ちょっと不思議で知的な読み物 |
山口一男著、『ダイバーシティ』はちょっと不思議な本である。一作目の『六つボタン・・』はファンタジー小説であるが、同時に社会学(的考え方)の入門書でもある。二作目の『ライオンと鼠』は劇の台本のようであるが、日本文化論や、ディスカッションを通じた知的生産法の本でもある。
1作目の『六つボタンのミナとカズの魔法使い』は、社会科学的なファンタジー小説と銘打たれている。ミナという少女が、あるモノを求めて魔法使いカズに会いに行くが、その間に、様々な難関を潜り抜け、成長していくという話である。
ミナがクリアしていく難関・難問は、社会学の考え方を利用したものである(たとえば、「囚人のジレンマ」「予言の自己成就」など)。このファンタジー小説を読んでいくことで、楽しみながら、自然に社会学の考え方を学んでいくことができるという仕組みになっている。
同時に、ファンタジーのストーリー自体も正統派で楽しめるものとなっている。少女がコンプレックスを克服して成長していき、人はそれぞれ異なっていてもよいのだと、ダイバーシティを肯定するように導かれる過程を描いたストーリーは、読者を引き込んで一気に読ませる力があり、読後に希望と清涼感を与えてくれる。
2作目の『ライオンと鼠』は、教育劇と題されているが、山口一男教授の日本文化論の授業の1コマをフィクションも加えて描き出したものである。「空気が読めない(KY)」を忌避する若者の話など、最近の日本の文化現象をとりあげて分析しており、最新の日本文化論、日米比較文化論として興味深い。
また、山口教授と学生とのやりとりは、アメリカの一流大学において、教員と学生とがディスカッションを通じて新しいアイデアを共同で生み出していく、その知的生産の過程を生々しく捉えた、稀な書物である。日本の教員でも、ディスカッションを授業に取り入れたいと願いながら、うまくいかないで悩んでいる人は多いと思うが、この作品のやりとりは参考になると思った。
『ダイバーシティ』は一冊で色んなことを学べ、同時にエンターテイメントとしても楽しめる、「一粒で何度でも美味しい」、不思議で新しい読み物だと思う。
|
 |