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甘粕大尉 (ちくま文庫)

甘粕大尉 (ちくま文庫)

とても良い / 口コミ件数 : 6


価格 : 882 円





クチコミReview一覧
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口コミ件数:6 1 2 次ページ
1.  とても良い pasonekoさん 書き込み日: 2005年04月10日

映画館の光と闇のように・・・

近代日本史の闇の部分を秘めたまま、太平洋戦争が終わると再び闇に戻った男の評伝である。他の角田房子氏の作品と同様、丹念なリサーチに裏付けられた評伝となっている。

多くの伝記作家とは違って創作や類推を極力排除したスタイルは、甘粕本人の人生の闇の部分に光を当てはしない。しかし、見えない部分があるからこそ逆に、甘粕像がくっきりとした輪郭を持って浮き上がってくるのだとは言えないだろうか?読了と同時に独特の読後感が残る佳作である。

前大戦前後に興味を持つすべての人に読んでいただきたい作品である。



2.  とても良い el mundoさん 書き込み日: 2007年04月24日

「天皇の赤子」が失意の先に見た夢は

本書で用いられている写真は、表紙にある甘粕の肖像一枚のみ。
その一枚が、甘粕の信念と苦悩と挫折を、何よりも象徴している。
それだけに、口絵はもちろん本文中にも写真の出てこないことが、
むしろ故意なのではとさえ思えてくる。

大杉栄暗殺事件の罪を自ら背負った甘粕。逃げるようにして
フランスに立ち、苦悩の日々を送る甘粕。全章の中で、フランス
での隠遁生活を扱った章が一番興味深かった。天皇に仕える者
として、罪をかぶるのは当然とは思いつつ、一人の人間として
やり切れない思いが残る甘粕の苦悩が、ありありと浮かんでくる。

以後、この事件に関して、甘粕は沈黙を保つ。

そんな甘粕が、生まれ変わる(re-born)ことを求め、新天地として
目指したのが満洲だった。五族協和の夢を掲げることは、日本人として
の甘粕の独善であったといえば、そうだろう。しかし、武断統治を志向
する関東軍とは別個の勢力が、甘粕を中心として存在したことは、記憶
するに値するだろう。甘粕には、甘粕の、満洲国にかけた夢があった。

本書で呈示される甘粕像は、どこまでも淋しく虚ろである。満洲で存分
暴れた<影の帝王>甘粕には、凄惨な暗殺事件の犯人というレッテルが、
いつまでも心のスティグマとして疼いていたのだと思える。

甘粕の生き方に共感し、賞賛したがる人には、充分満足いく作品となって
いる。甘粕を批判し、貶めたい人にも、甘粕の独善性にも触れられている
ゆえ、充分読み応えがある。その意味で、広く読まれるべき評伝として、
本書は稀有なまでに優れているのではなかろうか。ここには、甘粕ばりの、
本当の意味での「バランス」があると思う。



3.  とても良い 楡岡さん 書き込み日: 2005年04月21日

読後に”ラスト・エンペラー”を見直してしまいました。

 大正12年、活動家大杉栄殺害の罪を受け除隊、その後満州で暗躍、満州で比類ない権力を振るうにいたる甘粕正彦。
 実に訳のわからない話であるが故に、その時期なにが起きていたのかは探求に値する。張作霖爆殺から満州国建国、太平洋戦争へとむかう時代精神と、関東軍、陸軍中央のありようが、甘粕正彦を焦点として描き出される。
 自己の栄達を目的とせずに行動する人間は強い。それは強烈な天皇崇拝を抱いていても同じだ。個人の信念がどれだけのものを呼び込んでくるのかという、個人のありかたについても考えさせられる材料を含んでいる。



4.  とても良い ナワトビさん 書き込み日: 2007年09月28日

虚々実々の人物像

映画「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じていた人物は、実物の甘粕正彦氏とは全く違うことがよく分かる本です。甘粕氏が「大杉栄を殺害したのか否か」という謎は解けぬままなのに、この事件が彼のその後の人生観を決定付け、そして陸軍の甘粕氏に対する負い目が、満州国における彼の暗躍・権力へと繋がっていく過程が、よく分かりました。合理主義者であるのに絶対的天皇崇拝を捨てなかった二律背反、畏怖されながらもいつしか人を惹き付ける不思議な存在感が、彼と接した人々の証言などから検証されていきます。事件後の甘粕氏のヨーロッパ生活、満映の内情など、多角的に甘粕氏について言及した労作です。文庫化は嬉しいですが、単行本に掲載されていた満映時代の写真があれば・・・とは思います。



5.  とても良い antibushさん 書き込み日: 2008年09月02日

複雑で魅力的な人物

 「満州」というと個人的には石原 莞爾に惹かれるのだが、石原と対立した「満州の夜を支配する男」甘粕もまた充分魅力的な男だということがわかった。
  角田氏は当時の関係者に丹念に取材し、一般にイメージする「主義者」大杉栄の幼い甥まで惨殺した「残虐な憲兵」というイメージを払拭する。(大杉栄の妻伊藤野枝の話は瀬戸内寂聴氏の「美は乱調にあり」が抜群に面白いので参照されたい)
 
 恐らく軍上層部の命に従って罪をかぶったことであらわされるように骨の髄まで軍人で、天皇を頂点とする日本に命を捧げた男は、大杉一家虐殺事件を機に闇の世界に足を踏み入れる。
 後半生は傀儡国家満州国の実力者として辣腕を振い、満映では経営者としても指導力を発揮。一方「趣味は国際的謀略」と称される裏の部分については謎が多くあまり記述されてはいない。

 甘粕の魅力は一方で現実主義・合理主義で時には冷たい面もありながら、満州人や中国人も庇護し(あくまで主=日本、従=満州という範囲の中でだが)、北京の街路樹を伐採しようとした軍に対し「戦後日本が野蛮な国と誹(そし)られる」と主張しそれを忌避するなど、広い視野に立っていたことだろう。

 角田氏の筆致はあくまで冷静で事実を追っているが、文庫版の最後にある中国人留学生虐殺事件(これは甘粕とは関係ないが)についてはかなり感情を込めて書いている。朝鮮人虐殺については有名でも、これは今では大部分の日本人が知らないことだろう。



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