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戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

とても良い / 口コミ件数 : 14


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1.  とても良い u99さん 書き込み日: 2004年09月04日

警告と希望

 戦場では意外にも非発砲者が多いという。第82空挺隊員でもあった著者は冒頭において先ず、「大義と国と仲間を守ろうとしなかったかれらに不快を感じずにはいられない」と訴える。
 しかし、その直後にこうも述べる。「かれらの存在を、そしてかれらが体現しているわが人類という種に備わった高貴な性質を、やはり誇りに思わずにはいられない」。

 著者のこうした強い内面の相克こそ、本書全編に貫かれているものだ。それは、人間の本性というものを一つ一つ白日の下にさらす解剖学的努力でもある。500ページにも及ぶ本書の文面からは、著者自身が深く悩んでいる姿が見えてくるようだ。

 もちろん、著者は元軍人であるから、戦場における合法的殺人を究極的には否定していない。しかし、限定的にせよ、人間が生来的に内在する『汝、殺すなかれ』をこうした著作によって具現化しようとしているようにも思える。なぜか。それは、「まぎれもなく存在するその力(殺人への嫌悪感)の確かさが、人類にはやはり希望が残っていると信じさせてくれる」からだ。著者が元軍人だからこそ、この言葉に一層救われる。

 ただし、気になる部分も若干ある。例えば、米軍と同様に日独軍の発砲率も約20%だったはず(第1章)と記す一方、ドイツ兵は米英軍兵士より多くの敵を殺したとある(第22章)。後者は、むしろドイツ兵の高発砲率の例証ではなかろうか?それとも発砲者一人当りの命中率が違うのか?この点、整合性ある答えが欲しかったところだ。

 ともあれ、それでも本書はやはり力作だと思う。「戦争における」という枕詞に限定されずに、はるかに広く深く人間を理解する上で最適の一冊だと言えるだろう。同時に、本書は人類への警告の書であると共に、希望の書でもあるように思えてならない。



2.  とても良い 哲学する河童さん 書き込み日: 2006年04月24日

何よりもリアル

戦争を賛成するにしろ批判するにしろ、戦争についての知識がなければ説得力に欠ける、と思う。
戦争の現実を最もよく理解しているのはやはり実際に戦っている兵士なのだろうが、普通の人はそんな体験をすることはないし、またしたくもない。でもこの本を読めば、少しでも兵隊の気持ちがわかるかもしれない。

この本の著者は、実際に軍隊にいて、今は陸軍の教官をしている。そしてこの本は、陸軍学校の教科書になっているとのこと。

戦場で敵に出くわせば、誰でもすぐに殺せる、というわけではないらしい。
なぜなら、人間は本来同種を殺すことにものすごい抵抗感を持っているから。
南北戦争のゲティスバーグの戦いの後、戦場でマスケット銃が多数回収されたが、そのうちほとんどに、弾丸が三発以上込められていたという。
当時の銃は、一発詰めて、打って、また詰めなければならない。なのに、23発詰められていた銃もあったらしい。これがどういうことを意味するのか??
当時の兵士のほとんどは、敵(自分を殺そうとしている敵!!)に向かって、引き金を引くことができなかったのである。

第二次大戦においても、発砲率は15%。
朝鮮戦争では55%に上がり、ベトナム戦争では90%に上がる。

アメリカ陸軍がどのようにして発砲率を上げたのか、この本を読めばわかる。

間違ってもこの本は戦争に賛成しているわけでも、人殺しを賞賛しているわけでもない。
著者はマッカーサーの言葉を引いている。

「兵士ほど平和を祈る者はほかにいない。なぜなら、戦争の傷を最も深く身に受け、その傷跡を耐え忍ばねばらないのは兵士達だから。」



3.  とても良い ラインハルトさん 書き込み日: 2008年01月08日

戦場で何が起きているのか

映画やドラマで主人公の弾は敵に命中するのになんで敵の弾は味方に当たらないのだ矛盾してる、などと私は思いながら映画やテレビを見ることが多かった。しかしこの本を読み終えた今、ふとそれらのことを考えるとあながち非現実的ではないように思える。ゲリラやテロリストが特殊部隊に急襲され一方的にあっという間に制圧されるのはフィクションのご都合主義ではないようだ。

「訓練と実戦は違う」「彼はプロの訓練を受けている」「人を殺すのは難しい」「何をしてる早く撃て!」よく聞かれるこの台詞の本当の意味が本書を読むことで明快になる。いつ死ぬか知れない戦場で兵士が荒々しいのん気な冗談を言っているのは何故か、鬼軍曹がいつも訓練中に顔を近づけてボロカスに罵るのは何故か、私が勝手に「所詮映画だから(笑)」と思い込んでいたベタなシーンの数々は実はリアルな描写だったのではないだろうか。そこには明確な理由があるのだ。

「何故人は戦争をするのか」という問いは多いが「何故人は殺さないのか」という視点は珍しい。兵士が敵を戦場で殺すのは当たり前だとどこかで思い込んでいた現代人の私には目からうろこである。私も含めてレビューだけでは書けない興味深いエピソードが満載なので是非読んでみて欲しい。「え?戦場って実際はそんな感じだったのか」と衝撃と正しい認識が得られると思う。



4.  とても良い 青ちさん 書き込み日: 2007年10月09日

人殺しと戦争と平和

アメリカ軍において、第2次世界大戦で敵に向かって実際に発砲した兵士の比率は15〜20%であったという。それが、朝鮮戦争時には55%となり、ベトナム戦争時には90〜95%にまで劇的な上昇を見せた。

何故そういうことになるのか。自身も軍歴の長い著者は、この大部な本の中でその問題に分け入っていく。その分析は、膨大なインタビューや手記、また数多くの先行研究を引きつつ、戦場に置かれた一人一人の心の動きやそれを規定する諸条件をあぶり出していく。そのような環境や条件の下に置かれたなら、またそのような訓練を経たならば、読み手自身もここに書かれている行動パターンをはみ出すことは難しいのではないか。そう思わせるリアリティがこの本にはある。

繰り返し強調しておきたいが、本書は観念的・皮相的な戦争賛美や反戦論とはまったく趣を異にする。「他者を殺す」とはどういうことなのか。戦場に送られた兵士は何を見て、何に傷ついて帰還してくるのか。もし「戦争と平和の規範」というものが成立するとすれば、それは圧倒的な証拠をもってここに提示されている「人間の現実」を踏まえたものでなければならないと思う。



5.  とても良い tendawnさん 書き込み日: 2005年05月01日

戦争で人を殺すということ

戦闘で人を殺すということが実際にどういうことなのかを多角的に研究した、他に類を見ない貴重な本。
著者はアメリカの軍人で、本人に実戦経験はないものの、十分な聞き取り調査や客観的なデータを提示することで非常に説得力のある説明がなされている。

この説明によると、ほとんどの人にとって、本来他人を殺すことは生理的にどうしても避けたいことで、一番進んだ人殺しの訓練法は、心理学でいう「条件付け」(例:人の形を見たら撃つ、人の形を見たら撃つ…これを繰り返す)なのだそうだ。これによって「人を殺す」ことの心理的な抵抗を無くすのである。

この端的な説明は、戦争という「異常な状況」を単なる手続きに変えてしまうことを、あまりにも見事に説明しており、ある意味で現代の戦争の本質とも言える部分だと思う。また、この認識を踏まえずには、現代の手続化された戦争を理解するのに困難をきたしてしまうかもしれない。

例えば、1993年のソマリアでアメリカ軍とアイディード将軍の民兵が戦ったとき、アメリカ軍の犠牲者が19人であったのに対し、ソマリア人の犠牲者はなんと1000人以上に上ったという。もちろん装備・兵器の違いや組織としての連携度の違いなどもあるだろうが、最も大きかったのはこの「条件付け」ではないだろうか。

日本に住む私たちは、(今のところ)こうした戦闘に巻き込まれることはないが、現代の軍隊がこうした「人殺しを条件づけられた」組織だということを知っておくのは、現在の世界を知る上で有意義なことだと思う。

映画や小説などのフィクションで飾られた戦闘ではない、真実の戦闘を垣間みられるという意味で、強くオススメできる本である。



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