良い / 口コミ件数 : 7件
価格 : 924 円
最近の宮部みゆきの中では、個人的にベストである。 宮部作品は、いつも人の「業」をテーマにしていると感じるのだが、今回はとくに無垢な存在である「ほう」を中心にすえることで、善人(宇佐・井上親子・泉医師・加賀など)である人ですら、みずから「正しい」と感じることを為すことが難しいのだという、人が生きることの苦しさが描かれていた。 これらの人々を取り囲む背景の書き方も見事である。 私にも、丸海藩からのぞむ海が見えるような気がした。
私自身、宮部氏の現代小説時代小説を読むのはまだ2作目であるが、正直、作者のファンでなくては、この上下巻あわせて800ページ以上を読破するのは骨が折れると思う。 淡々としながらもハートウォーミングな語り口で作品が進行するのであるが、とにかく、この作品には「抑揚」がない。なにしろ、「孤宿の人」本人が登場するのが、下巻の前半である。そして、作品のテンポがはやまり、面白くなってきたのは下巻の半分過ぎからであった。私自身、作者の作品であるからこそ、「いつか面白くなるはず」と信じて読むことができたが、他の作者の作品だったら、途中で挫折していたと思う。 また、この作品には数人の主要な登場人物が描かれているのだが、結局誰が主人公であるのかがはっきりしなかった。このへんが作品の「抑揚」のなさにつながるのかもしれない。
江戸に生まれながら、誰からも顧みられず金比羅参りで棄てられたほうと、彼女を姉妹のように優しく見守る宇佐と言う二人の純真な少女と、国や藩などを先ず考える「大人の世界」の考え方との対立を、丸海藩と言う四国の小藩を舞台に描いてゆきます。 物語は、ほうが慕う医者の娘の毒殺事件から始まります。 犯人もはっきりしているのに不問に付してしまう「大人の世界」に対して、疑問を持つほうと宇佐。 その後もこうした子供の目には不可思議なことが続きます。 その裏には、丸海藩が幕府から押しつけられた元勘定奉行の罪人加賀の受け入れがあります。 彼を“悪霊”として恐れる民意を利用して行われる藩の内紛も蠢いています。 そうした様々な事件を通して、成長してゆく二人の慕いあう少女たちですが、ほうは大人たちに利用されてゆくことになります。 宇佐は、そんなほうを影ながら心配しています。 そんな純真な魂の触れあいは、心温まるものがあります。 切ないラストですが、なかなか楽しめる一冊です。
前半から中盤にかけてのもったり感は山本周五郎の作品にも共通する「臭いものにはフタ」のようなその時代の(特徴と思われる)ことなかれ主義だと思うとあまり気にはならない。 宮部みゆきは子供、特に少女の成長を描く事に非常に巧みな作家だと思う。 この少女の悲しみに共鳴するところがあるせいかラストの哀切な「ほう」が「おあんさま」に語りかける場面ではやっぱり、わかっていながら作者の術中にはまって泣いてしまう・・しかし、心地よく心洗われる涙なのでよしとします。
四国の小藩(モデルは丸亀藩)を舞台に、江戸から放逐された天涯孤独の少女"ほう"、女だてらに岡っ引き(引手)見習いの宇佐を中心に、小藩に暮らす人々の悲喜こもごもの世界を描いた作品。江戸からこの小藩に流罪になった元勘定奉行が巻き起こす悪霊騒動、毒殺事件が物語を貫く糸となる。 正直言って上巻はかなり退屈である。漁師町の風情が木目細かく描かれているとは言え、読む者を惹き付けるモノがない。"ほう"の境遇も取り立てて珍しいものではないし、第一"ほう"の描写が少な過ぎる。流罪人の加賀に関する情報が無さ過ぎるのも退屈さの要因。「悪霊に取り憑かれたモノ」と京極夏彦氏ばりの言辞を弄する割には物語に妖異性がある訳でもない。宇佐の気丈さだけが頼りなのだが上巻の最後で見習いをクビになる。 加賀の留置所はかつて謎の疫病が流行った屋敷。その屋敷で下働きをする"ほう"。"ほう"を襲う黒い影。悪霊が憑いた屋敷に鬼が棲む、などと人々は噂する。疫病の風評も立つ。京極堂なら"憑き物落し"をする所だ。一方、加賀に目通しを許され教育を受ける無垢な"ほう"。"ほう"との交流で凪ぎの表情を見せる鬼ならぬ人の加賀。悪霊や鬼は人の心の中に棲むと言うテーマだが目新しさに欠ける。作者が四国に取材に出掛けた事で、却って小宇宙での閉塞感に満ちた物語が出来てしまった。悲劇の人、加賀の最後は予定調和。題名の「孤宿の人」は加賀を指していたのだ。最後に"宝"の字を貰う、作者が意図したと言う"ほう"の成長物語が唯一の救い。