とても良い / 口コミ件数 : 16件
価格 : 600 円
映画の『13階段』をみて、 本書の著者の坂本氏がそのアドバイザーを務めたというので、 手にとってみた。 坂本氏は死刑執行に実際に携わったことのある元刑務官である。 死刑の是非を問う議論は世にかまびすしいが、死刑の当事者は限られている。 犯罪被害者の家族、死刑囚、死刑囚の家族、そして忘れがちであるが、 死刑を実際に執行する公務員、すなわち刑務官である。 本書のいちばんの特色は、頭のなかの理屈ではなく、 目の前の現実として死刑を受け止めなければならない 当事者たちの視点から書かれている点である。 クリスマスに死刑執行を命令された刑務官の気持ち、 まさに死刑を執行される死刑囚の気持ち、 当事者ではないが、死刑反対運動に巻き込まれて、 つらい思いをする刑務官の家族の気持ちなどを ていねいに描いている。 だからといって坂本氏は単純に死刑反対、というのではない。 一家4人を惨殺して死刑判決をうけながら、 反省の色も見せず「自分も国に殺される被害者だ」と嘯く死刑囚や 精神異常を装って死刑から上手に逃れてみせる卑劣な犯罪者の様子は 読むものに心底、怒りを感じさせずにはおかない。 死刑制度の当事者になるという経験は、世にまれである。 ほとんどの人は、死刑を身近に感じることなく、平穏に一生を終える。 だから、死刑是非論はどうしても論理先行、理念先行になりがちだが、 本書はそこに「当事者」という名の一石を投じる。 社会制度を議論するのに、当事者でなければ資格がないとはいわないが、 しかし、正義や理念、理想だけが先行する議論はどこか空疎である。 その意味で、死刑の当事者、死刑の現実をこれでもかと書き並べた本書は、 議論としてのまとまりには欠けるものの、いわくいいがたい何ものかを残す。 良書とも名著とも少し違う、 しかし、読んでおくべき本のひとつであることは おそらく間違いない。
刑務官という我々にはあまり知られていない世界について知ることができる。 元刑務官による視点が極めて多くのことを考えさせてくれるのが本書だ。 むしろ死刑反対派にとっては耳が痛い書物であり、目を背けたい書物であろう。 死刑囚が実際には反省してなどおらず、いかに狡猾に立ち回る者なのか・・。 弁護士や人権派などがいう世界とは別の世界があることを深く痛感させられる。 死刑が廃止されることによっていかに統治が崩壊しある種の人たちにとっては、 犯罪のしやすい社会になるのではないかと思わされる。 人はなぜ人を殺すのか、罪を償うことはできるのかということについても考えさせられる。 多くの人に読まれるべき書物であると思う。
この本を読むまでは“快楽や利益の為に人を殺したら絶対死刑”だと軽い気持ちで思っていました。読後その気持ちの方が強いものの安易に死刑に対して賛成とか反対とは言えなくなりました。著者は反対の意見も賛成の意見も両方素晴らしい意見を紹介していて深く考えさせられます。そして死刑囚と真剣に向き合い彼ら(の魂)を救う刑務官の方の忍耐、苦悩、暖かさには本当に心打たれました。少々凄惨な場面や描写もありますので万人向けとはいえませんが貴重な本だと思います。
前半はよくある単なる死刑反対派の読者洗脳本かと誤解を受けやすい内容でしたが、中盤からは実経験に基づいた小説仕立ての、どうしようもない死刑囚や、演技で死刑逃れした人の記述等があり、あとがきでは、筆者は死刑反対派であることを明言したのに関わらず、賛成派の学説にもきちんと触れており、筆者の個人的意見を読者に押し付けない良書と思いました。
私達一般人は、拘置所はおろか、刑務所内の実情とは縁が無く過ごす事が多い中、本書は更に死刑囚にスポットを当てた快挙の書と見るべきだろう。重要な部分は、元刑務官という当事者が書いた部分が大きい、大抵この手の書物だと自分の勤め上げた愛着から保身に回り、擁護的な文になりがちだが、本書はそれとは全く相反した内容である。例えるなら企業内告発に似た雰囲気が掴み取れ、そういう意味では快挙というべきだろう(但し語り口の雰囲気から少々デフォルメ感も感じられるので読み手によって情報精査して読む必要もある)。しかしながら、その多少の誇張感故に中盤からはグイグイとひき込まれる内容でもあった。 一番大きいのが人間模様だろう。死刑囚でも様々な人々にスポットを当て、その人種も様々。本書を読んで驚いたのが、全てとは言わないが一部の死刑務所では全く統制が取れておらず、房内でAV鑑賞会を行うほど規律は乱れ、囚人が刑務官を顎で指図し、強迫するような天地逆転の所もあるようだ。対して刑務官の世界では、完璧なまでの地位ピラミッドが形成されており、出世や銭で歪んだ見方しか出来ず、囚人の扱いを等閑にしてしまう程の状態にもなっているようだ。そこで本書中盤では、上記の「囚人の暴走」と「刑務官の腐敗」が焦点となって話が進む。この当りが一番のハイライトと思われる。いわゆる「叩き上げ」ノンキャリアの刑務官が荒れた刑務所に送りこまれるという内容だ。話しとしては小奇麗だが、実際の所叩き上げ潰しのために送りこまれた実体が、腐敗を裏付けている。 本書を読む事で更にこの国の「終身刑」が無く、実質懲役20年の「無期懲役」と「死刑」の圧倒的な刑期の開きを実感することにもなった。この国には死刑議論を語る前にまず、終身刑を導入する必要があるかもしれない。