とても良い / 口コミ件数 : 1件
価格 : 2,940 円
考古学に関心があって、でも自分で勉強するにはどこから始めたらよいのかわからないという人(私だ)に心から推薦したい本です。これまで入門書を何冊か読んできたのですが、選び方がまずかったのか、具体例や研究手法の紹介ばかりの退屈な書物が多くて、とっつきにくかったです。この本はちがいます。形式としては、著者による過去の文章をいくつか集めた作品ですが、どれもズブの素人や若い人(この学問に対する見識がまだ未熟という意味で)を想定していると思われるエッセイや講演調の文章(多少、専門的なものも含まれますが)で、その「語り」を興味ぶかく聴いていると、考古学とは何を行なう学問なのか、という事がとても明確にわかるってきます。そして何より、その魅力(「知られざる」といってよいでしょう)が余すところなく伝わってきます。 特に、なるほど!と深く納得したのは、考古学とは単に古代史に先立つ大昔の遺跡なんかをほじくり回している学問、というのではなく、むしろあらゆる先人たちの残した「物的証拠」から得られる情報を引き出せるだけ引き出すことを目的とする研究視点に他ならない、という著者の見解です(それは限られた物証から事件の真相を解明しようとする刑事や探偵に類似します)。であるからして、その学問の成立根拠となる「考古学の資料とは何か、といえば、「過去の人類の活動が引き出しうると考えられるすべての物的証拠」というべきであり、あらかじめ一定の範囲など定められないし、また定めるべきものでもない」のです。「石器時代」「縄文弥生」や「土器」「古墳」だけが相手なのではなく、たとえば近年では、江戸の社会や文化のこれまで闇につつまれていた部分を明らかにするために、考古学が大活躍しているようです(六道銭の変化から貨幣流通の歴史が再現されたりとか)。 けれど、やはり(というべきでしょうか・・・)本書で最もすばらしいのは、縄文時代の話だと思います。貝塚から復元される人々の生活の積み重ねや、魚骨の分析により推測される魚醤の製作の存在、縄文人の食料の豊かさや自然との適切な共生のスタイル、土器の模様や造型などからわかる漆工芸の洗練された技法や数字をめぐる特異な観念、など、もはや「沈黙」してから数千年にもなるはずのモノたちが、学問の力によってその重い口をしぶしぶと開く様が色々と解説されていて、とてもおもしろく読めました。 今後は、さらに自分の関心にあった専門的な著作にチャレンジしてみよう、と好奇心とやる気が確実にわいてくる本だといえます。これぞ名作。