とても良い / 口コミ件数 : 32件
価格 : 1,680 円
この著は国策捜査で有名になった佐藤優氏の、外交官になった85年からソ連が崩壊する93年頃までのモスクワ生活回想録である。 恐らく事実であろう。 事実にしては凄い体験だ。ソ連の政治家、思想家等とのコネクションの構築の過程、ソ連邦各国でのクーデターに立ち会ったときのこと細かい説明、ゴルバチョフ死亡疑惑の際に生存の情報を真っ先に得た際の状況等々、現場に立ち会った著者の体験が次から次へと記されている。 『国家の罠』でも感じたことだが、著者が義理なり信念を非常に重んじているのが著書の軸を形成している。この軸からぶれない。それが国策捜査であれ逮捕された著者の本が広く支持されている理由の一つであろう。 もっと仕事をさせたかった、と思うと同時に仕事を今でも続けていればこの内容が表に出ることもなかったのかと思うと複雑な気持ちになる。早く次作を読むこととしよう。 ところで、著者の酒の強さには脱帽、本を読んでいながらもこちらが酔ってしまいそうな酒量である。御身大切に・・・
いや実に面白い。「国家の罠」でもそうであったように、読み進めていくうちに小説と錯覚してしまう。それほどに読者の想像力を刺激する。 この著は氏が外交官としての成長と外交官兼スパイになるまでの過程を、ソ連が自壊しロシアに至る大きな歴史の流れに組み込んだものである。そもそも、ソ連が自壊する過程を知らない人は意外と多いはずである。その自壊の過程は実に人間臭く有機的な匂いを放っている。それを知る事が出来るだけでも一読する価値がある。また、その自壊する過程の中で氏の果たした役割は非常に大きいのである。 西側の外交官にして共産党派に多くの人脈を持つ異能の外交官。卓越した洞察力と孤高のインテリジェンス。真にエリートであると痛感させられる。 なお、今回は艶っぽいエピソードが適宜導入されており、思わずにやりとしてしまう場面も多々ある。 とにもかくにも、日本政府は逸材の人物を自ら手放してしまった。殊に外務省の体質弱化には目を覆いたくなるものがある。
佐藤氏によるこの新著は、内容時系列的には前著「国家の罠」から遡り、80年代後半からの著者の交友関係の拡大の様子を通し、動乱期渦中のソ連ロシアの知識人と官僚の思考と行動を活写して、きわめて興味深い。 同時に、本著には、「国家の罠」にあらわれた、著者の一個人、あるいは一職業人としての行動のバックボーンを裏付ける意味合いが込められている。それは、困難な事態のなかで「筋を通す」ことに価値を見いだす一群の者たち、その間で国境陣営を越えて「真実を伝えたい」と願いあう欲求、そうした交流をとおして「実際に真実が伝わる」という信念、といったようなものであろうか。そこには、当然、多くの自己撞着、矛盾、敗北、転向、挫折が含まれるにせよ、である。 著者は直接に書いてはいないが、問われるのは「では日本の知識人、官僚、政治家はどうなのか?」ということであろう。それにたいする答えを私はもっていないけれども、少なくとも、この「自壊する帝国」も前著と同じく是非読むべき一冊である、ということは確かに言えると思う。
購入してそのまま、一気に読破しました。面白かったです。前作『国家の罠』を読んで以来、佐藤優さんの類い希な知性と、その文章が醸し出す前向きなユーモアセンスに魅了されてしまいました。 今回の作品では、情報分析官としての修業時代に遭遇した、「ソ連崩壊」という大事件を佐藤さんの独自の視点から描いています。史実を淡々と時系列で述べていくのではなく、ソ連という巨艦が沈没していくプロセスを、その現場に居合わせた人々の動きを追うことで、緻密な人間ドラマとして描いている、力作です。 それにしても、モスクワ大学での反体制派学生とのひとつの出会いをきかっけに、アカデミズムやジャーナリズム、守旧派の共産党幹部にまで人脈を広げ、様々な情報を取ってくる佐藤さんの姿は、ラスプーチンというより、ゾルゲのようにも思えました。 また、物語の最後で、前作と見事な連環を見せるのですが、その辺りの筆力は、熟練した小説家のようでした。
回顧録な以上、本来はノンフィクションというべきなのだろうけれどそのあまりにも魅力的なストーリーに外交について過剰な幻想、期待を抱かないために「小説」として享受すべきと自戒したくなるほどの一冊。 外交とは普段から先々を見据えて人脈をいかにつくり、発展させていくかということをさまざまなエピソードでもって極めて説得的に教えてくれる。その際に要求されるのはただ単に歓待でもって媚び諂うことではなく、信念、教養で持って人的信頼をつくることそのものであることが何度も何度も語られている。 特に人が苦境に立ったときにどのように振舞うか(おそらくそのことは著者自身が鈴木宗男氏とともに国策捜査に嵌められたという苦境の中で痛感したこともあるのだろうが)が、その人の価値をも示してしまうということをリトアニア独立紛争、ソ連邦解体を決定付けたクーデター騒ぎなどを通して垣間見せている。まさに佐藤氏があとがきで記しているように本書は外交理論の書ではなく、まさに外交精神の書とでもいうべきものであろう。