とても良い / 口コミ件数 : 2件
価格 : 1,680 円
その人をその人のまま、愛するということ。 十数年前、大島渚監督に人生相談をお願いした。「多忙な監督のこと、断られて当然」と諦めていた矢先に、監督ご本人から返事をいただいた。「お受けします」。未熟者で、弱小出版社に勤める駈け出しの編集者である私に、監督は敬語で接してくださった。 週に一度、相談項目をファックスで送り、実際に会って監督から回答を得る。そんな形で連載が一年あまり続いた頃、ご自宅に伺った。少し緊張してインターフォンを押すと、門の向こうに和服姿の小山明子さんの姿が……。門から玄関へと案内してくださる小山さんの美しさに嘆息した日を今でもはっきりと覚えている。「パパ」「ママ」。大島監督と小山さんはお互いにそう呼び合い、息子さんたちが幼かった日の話を楽しそうに聞かせてくれた。「今、これに夢中になってるの」。小山さんは、当時はやっていた心理テストを試み、お二人の回答に、私たちは「さすが、ぴったりのパートナー!」と頷き、笑い合った。 『パパはマイナス50点』──小山明子さんが著したこの本は、大島渚監督への愛に満ちている。「何もできないからこそ愛おしい」。テレビのトーク番組で小山さんが語ったこの一言が全編にあふれ、思わず胸が熱くなる。女性情報誌の人生相談で、大島監督から学んだ実に多くの人生哲学と、監督にしか教えていただけなかった美学を今思い出している。 人間の尊厳とは何か。幸福とは? 私は、20代後半に大島監督に出会えたことを誇りに思う。そして大島監督を通じて、女優として輝く以上に、奥様として、母として、私たちが嘆息するほどに美しい女性の先輩、小山明子さんにお会いすることができた日を宝のように感じる。大学を出たての入社試験で私はこう書いた。「そのとき、何をしていてもいい。大地にしっかり立って、この手で誰かの背中をしっかり抱きしめる。そんな人に私はなりたい」。小山明子さんの『パパはマイナス50点』を読み直すたびに、私はこの言葉をかみしめている。
大島渚・・・私は映画監督としてより論客として認識していた。そして論客としてよりジョン・グレイの著書の翻訳として印象深い。 この出たばかりの本書を読むことになったのも何かの縁か。。。。 大島渚が脳出血で倒れて、介護するのは妻であり女優である小山明子。小山は介護の途中でうつ病になる。自分のうつと夫のリハビリ・・・さらに大島を肺炎と十二指腸潰瘍が襲う。一からのリハビリ。 うつの本として、介護の本として、心から相手を信頼し愛し合えた夫婦の記録として、様々な読み方ができる本だ。 私も最近とても苦しいことが続く、これでもか!これでもか!と言わんばかりに。大島夫妻のように失ったもの以上の得るものがあることを祈らんばかりである。 大島が元気だったころに翻訳をしたジョン・グレイの『ベストフレンド ベストカップル』が単行本化され、その本が小山の元へ送られてきた。その本に書いている大島の言葉を読み、「満足に話せなくなってしまった夫から、思いがけない、けれど何にも代え難いプレゼントをもらったような気がした」という大島の一文を紹介しようと思います。 『妻は変わることなく私を「評価」し「信頼」してくれた。男として女性から与えてほしいものを全部与えてくれた。そのおかげで、私は少しずつ彼女の望むものを与えることができるようになった』 最後に大島が色紙を頼まれると必ず書いていた言葉を記す。 『深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない』