とても良い / 口コミ件数 : 14件
価格 : 735 円
じぶん」ってなんだろう、と誰もが一度は考えたことがあるかと思う。 「じぶんらしさ」とは何か。じぶんの中にその答えを探しても、他人には無く、じぶんに固有のものなどありはしない。 その答えは本書にあるかと言えばそうではなく、問いかけで終わっている。 第一章を読むだけでこの本の価値は十分あると思う。 じぶんらしさなんか本当はどこにもない。
「こだわりやしがみつきを手放すこと」についてあれこれ思う昨今であるが、人がとかくこだわり、そして悩みの種となっている問題に、〈わたし〉とか〈じぶん〉とかいったものがあるのではなかろうか。 これほど自明に見えて、これほど突き詰めていけばいくほど曖昧模糊として掴み所のないものは、他にそうないだろう。その困難を前にして、「自分はしょせん自分でしかない」といった類の思考停止を超えたところに、著者の思索の領域はある。実に言葉にしづらいテーマであるはずなのだが、著者の繊細な筆はそうした微妙なところをうまく言葉に乗せている。 語っても語っても伝わらないという体験は、誰にでもあると思う。とりわけ、「自己と他者」といったテーマにくくられるようなことについてそうした体験を持つ人は、この本を大いに参考とすることができるのではないか。
115ページ(自他関係の発生)の挿話を読んで驚いた。なにしろタイプ4の最も危ない親子関係が、自分の家庭にそっくりだったからだ。(これがうちの家庭が滅茶苦茶な理由のひとつだったのかと妙に納得)過剰な合理主義とひきこもりの共通点の話も面白かった。
自己と他者との関係というのは、あまりに身近過ぎて普段は意識しないもの。この本はそれを意識的に考えるきっかけをくれたように思う。
追求すれば追及するほど、「じぶん」の存在が不可思議で壮大さが増して可笑しくなっていく。小難しい箇所もあるが、気が付けば本書に惹きつけられてハイペースに読破できてしまう面白みのある一冊である。
名著である。哲学的な訓練を積み、なおかつ考え抜いた知性だけが能くし得る文章といえる。 一点だけ、電車内で化粧する女性についての一文は秀逸であり、考えさせられる。 それは脳の問題ではない。<他我問題>である。これを<脳の問題>とする議論こそが「問題」である。『唯脳論』や大手メーカーの研究所で高給を取るらしいチンケな脳学者の本は端から御免蒙るが、ケータイ脳やケータイ猿といった議論も非常に危険なイデオロギーを含んでいることが、本書でハッキリわかる。「電車でお化粧」はハッキリと思想・哲学問題なのだ! もちろんこれだけでなく、他の文章も繰り返し読むに耐える逸品の数々である。小林秀雄のエッセイ『考えるヒント』といったものにいまだに魅了される御仁には、是非読ませたい。文体に対する感覚、思考することの流儀がまったく変わってしまうだろう。