とても良い / 口コミ件数 : 6件
価格 : 1,008 円
アフォリズムが満載。どきりとしたり、にやりとしたり、心底納得したり、うーんと考えこんだり、読んでいてとにかく忙しい。仏教思想に裏づけられた文章が、閉塞感に満ちた現代を生きる読者の胸の深いところに、するりと入ってくる感じであろうか。
エッセイの古典であるだけあって、レトリックの巧さにも唸らざるをえない。注も親切で、一つ一つの章段も短いのでとっつきやすい。どの段から読んでもいいというのも魅力的である。軽く読み流したり、じっくり味わったり、いろいろなつきあい方のできる一冊だ。
徒然草の優れた点の一つはその言葉選びの正確さにある。過不足の無い表現は、それをなしえただけで立派な文学作品と呼ぶにふさわしいほどの品格を作品に与える。再読を重ねるに値する魅力を与える。それは正直な面構えをした高潔な文章体である。 そしてそこから兼好は「つれづれなるままに」感じたこと、思ったことを書き綴ってゆくのだが、彼のスタンスはあくまで「私」と言う点を外れない。自分の肉体を外れて発言することは無い。故に、彼がかくかくすべきであると言うときでも、それを読んだわれわれの印象は、何か教条が掲げられたと言うよりも、兼好が私はそう信じる、と言っているように感じられるのである。 卑しい啓蒙・啓発書が読者の不安・驕り・コンプレックスなどを煽りながら、それとなく自分の考え方に靡くように誘導するのに対し、徒然草を読んだとき、我々が向き合うのは正面をきって真顔を崩さない兼好という霊魂である。これを前にして読者は浮ついた表情を正さないでは居れない。この書物が読者を信じて書かれていると言うことに他ならない。 読書の粋はこう言う点にあるのではないか。一読、いや、二読三読をお勧めしたい。
小林秀雄の評価ではないが この本はモンテーニュのエセー、マルクスアントニウスの自省録と並んで 世界随筆文学の一つの頂点をなしていると考えて良いと思っている。各段はいずれも短く 短剣を思わせる切れ味に満ちており 読んでるほうも全く油断できない書物である。小林が「空前であり 絶後とさえ言いたい」と言い切っているが 確かに 兼好法師がこれを書上げた後に これほど見事で美しく なにより 賢い随筆にはお目にかかっていない気がする。現代を生きる我々は そんな徒然草を誇りに思うわけだが 一歩引いてみると これを乗り越えた物を作れていないその後の日本人は ちょっと まずいんじゃないかという気もする。
古典の定義の一つに、現代にいたるまで真理として生き残っていること、があるように思う。その点、徒然草はいつ読んでも新しい。まだ生きているという感を強くする。
是ほど簡潔な文章の中に、書き手の心持と人生観、価値観、を縦横に書き連ねている随筆集は、日本に於いても他にあまり見当たらない。吉田兼好が生きた時代は鎌倉後期であり、その時代を髣髴とさせて揺るぎ無い。人生の真の価値とは?今この時を大切にせよ!明日を思い煩って、本当に大切な今日の日を取り逃がすな!猫又とか可笑しな話もあるが、著者の真剣さは尋常の類ではない。時代は遠く隔たっても、法師が生きたこの時間は、現代に通じる。 生き方の指針の一つとして、兼好法師の体験や哲学は今を生きる我々に大いに参考や栄養になるものであろう。